最注目「今月の逸品」 vol.
04
市原平兵衛商店の盛り付け箸
豆でも胡麻でもなんでもござれ。
今回から、食にまつわる”もの”や”素材”も「今月の逸品」で紹介していきます。
食のシーンになくてはならない箸。箸の歴史は大変古く、中国では紀元前から調理道具として箸が使われていたとされ、日本や東、東南アジアの国々にも伝わり、現在では世界のおよそ3割の人々が箸を使っているという統計がでています。ちなみに残り7割のうち3割の人々はナイフとフォーク、4割の人々は手で食事をしているのだといいます。
お店で料理をいただくとき、美味しさはもちろん、出された料理の盛り付けの美しいことに感嘆してしまうことに度々出会います。料理人達の素晴らしい感性と芸術性、そして技術力。生まれながらに持っている才能と日々の努力によって生み出される一皿は、まさに芸術品。何気ない素材であっても、いかに美味しく、そして美しく提供するかを日々食材と向き合い、常に前進されている料理人の姿には頭が下がります。そんな料理人は道具そのものにも随分こだわると聞きます。
今回ご紹介する市原平兵衛商店の盛り付け箸は、日本料理店でよく使われており、「江戸時代の末頃より花板(料理長)のみに使用が許された」 と伝えられる盛り付け用のお箸を基に、 現代の人にも使い易いように工夫を凝らして作り上げたという箸。市原平兵衛商店といえば江戸時代から続く京都の箸専門店として有名ですが、さすがに老舗というだけあり、この盛り付け箸は逸品、優れもの。一般的な菜箸とは全く異なり先端が非常に細く絞るように作られているため、繊細な盛り付けが可能です。細いとはいえこの盛り付け箸は非常に丈夫。購入して何年も経っているにもかかわらず、反りも曲がりもせず、今でも2本の先端はぴったりと添います。そして単に先端が細いだけではなく、持つ部分が程良い太さに作られているため安定感は抜群。豆でもゴマでも難なく摘まめます。一旦これを手にしたらもう他の菜箸は使えません。仕事柄、料理の写真撮影では細かな盛り付けが要求されます。この盛り付け箸に出会う前は竹串を箸に見立てて作業をしていましたが、当然、細くて持ちにくく、また長さも短い。立って行う盛り付けでは腰を海老のように曲げなければならず、全身がひどく疲れたものです。
見た目にもバランスが素晴らしく、使いやすさを尽き詰めて仕上がった正に「用の美」の盛り付け箸。時代がどれだけ流れても変わらないこの美しさを創り上げる職人の心技は、これを愛してやまない料理人たちと無言の会話をしつつ、日々研がれ続けているように思えてなりません。
中條さやか
参考:一色八郎 『箸の文化史 世界の箸・日本の箸』 新装版