勉強になる「今月の一軒」 vol.
02
小ぼけ
勉強になるテーマ
毎日重ねる
「小さな先回り」
弊社が外食出店のお手伝いさせていただいている名鉄産業の方から、
「食いだおれの街で、うるさいお客を満足させる店を紹介しなさい」とご指示をいただいた。
調べることもない。
即答で「道修町小ぼけ」と答える。
ここで先に「うるさい客」というものを定義したい。うるさいという言葉一つで上げ足を取られて大臣の椅子を危うくした偉い人もいるが、なかなか厄介な言葉である。
食にとって「うるさい人」は、「楽しくその時間を過ごしているのに、中身の優劣を笑顔のうちに頭の中へ叩き込むことが出来る食の猛者」だと思う。外食をしてあれやこれやと自慢げにブログにアップするような俄かグルメとは一線を画す、スマイリングコンシューマーこそ大切で恐ろしいお客様なのである。外食で働いたことがある人なら必ず出会う「笑顔で、また来るわ!と言って二度と来なかった常連客」がそれだ。手痛い傷であるのもかかわらず、その結果に気付くまで何か月もかかってしまう「時限爆弾」。反省しても、もう間に合わない。
ここ「小ぼけ」は見た目普通のオフィス街にある大人の居酒屋だが、だてに同一エリア内で数店を経営していない。<br>平日でも店は満タンで、土曜日でも同じだ。
この店の強さは二つある。
ひとつは接客の気持ちよさ。もう一つは料理の価値である。
接客は、明るく、健気。メニューを開くなり、さっと横に来てオーダーを取ろうとする機転の利き方は並ではない。そりゃ何時もいつもそうではないだろうが、10回に3回がそうであれば、プロ野球の日本一チームの平均打率より上だ。
そして料理。ある日の夜に鰹のたたきを注文したら、早く出てきたことには当然感心したが、それよりその盛り付けとボリューム感の豊かさには、経験の確かさを印象付けさせられた。厚切りの鰹にたっぷりの薬味。出汁の効いたポン酢。過不足なく代金680円に呼応する。
これに難くせつけるのは、奢り高ぶる間抜けな飲食同業者くらいだろう。
ここに通うお客の多くは近隣のサラリーマン。どの顔も楽しそうでほのぼのしているが、どうみてもハイクラスのサラリーマンである。数多くの出張で旨い食べ物に出会い、気持ちの良い接客に出会ったことのある客だ。彼らが一日の曇りを取るために旨い酒を呑ませる店を、多くの中から篩にかけて残したのがここ小ぼけである。小ぼけは流行りの「食べログ」では決して高くない評価点。つまりこの店の常連客ともなれば、そんなランキングに投稿し、こともあろうに高得点など獲得してしまえば、自分たちの聖地を余所者に汚されることを熟知している。
それに加えて間違いなくこの店の客は「うるさい」。出来が悪ければ無言のうちに離れてゆく。上客とは優しさと厳しさを兼ね備えるものなのだ。
過酷な環境で頑張る小ぼけに習うは、店の中に漂う妙な空気を素早くキャッチできるようなスタッフを育成する重要性だ。つまり、常に先回りするための緊張感を切らさない小さな努力を継続しているからこの店の強いということを学びたい。
後日、冒頭の名鉄産業、「うるさい」経営企画室長から、「小ぼけ、いいねぇ。何だかわからんが、居心地がよかった。ありゃ客層がいいんだな」とご評価をいただいた。
室長!あなたもそのお仲間なのですよ。