勉強になる「今月の一軒」 vol.
04
酒中花 空心
勉強になるテーマ
ただただ真っ正直
今、本当に美味しく洗練された中国料理を食べたいなら、空心だ。
腕を発揮する大澤シェフのテクニックは抜群。そして笑顔もよい。
今回は、彼の料理に対する気持ちについて学ぶ内容である。
大阪市西区新町に絶好調の中国料理店「空心」がある。
ここの店の味は、「生ぬるくない」。主張性が強く、シェフの表現したいことがストレートに料理として完成され、それが絶妙のタイミングで、どんどん出てくる。某グルメ投稿サイトでは3.8点に満たないところを見ると、やはりこのような評価点数は何の意味もなしていないことが明確に判断できる店でもある。
12月の寒い夜。弊社がお世話になっているJR東海フードサービスの坂田社長と、珍しく大阪で会食となった。坂田社長はこよなく食を愛し、判断も公明正大である。その方に「これはすごい」と唸らせた料理は、大澤シェフがただ単なる敏腕の持ち主ではないことを裏付ける逸品であった。
料理名は「キンメダイの黒酢あんかけ」。
名前だけを聞くと何の変哲もない。しかし、口に含むと「顎が喜ぶ料理」だと実感する。 恐ろしく旨い。顎が喜ぶのだ。
理由は、粉をふってから素揚げした骨のサクサク感である。骨を食べさせる料理の多くは無理やり食べる感が強い。しかしこれは違う。骨がないと成立しない料理となっているからだ。
このファインプレーは「キンメダイを選んだこと」に秘訣がある。
キンメダイはご承知の通り深海にすむ白身魚で、好物は海老。骨や鱗にはこの海老の旨味がふんだんに反映されていて、一夜干しにすると炙った鱗が美味しい。骨は一見堅そうだが、揚げると柔らかくなり、海老の香りがする。この魚の生活環境や捕食するエサなどを意識した料理の仕上がりは「素材への謙虚さと素直さ」の表れと言って過言ではない。
食べ物を扱う以上、出されている商品とその素材についてパーフェクトに答えられるほどでなければ、経営者やシェフとしての資格はないが、恥ずかしいことに一般的にはそうでもない。空心は、そういった料理提供者の義務ともいえる必須条件だけをしっかり見つめて、確実に基礎をやり遂げ、ただただ真っ正直に仕上げている。
この真っ正直こそ、「恐ろしく美味しい」への王道であることを、痛烈に感じさせられる店、それが「空心」なのだ。
売上を悩むとき、この店の料理をどれか食べるといい。
きっと、最良の答えが見つかるだろう。