勉強になる「今月の一軒」 vol.
06
うずら屋
勉強になるテーマ
神経を使ったプロの振る舞い
焼鳥の有名店である。店舗だけの紹介ならば、もう語る必要もないほど、知られている。
大阪を元気にしようと取り組む姿勢も強く、今や関西を代表する元気な飲食店舗だ。
私は既に有名になってしまった店に興味を持てない性分である。理由は一つ。忙しい(儲かっている)ということに奢り高ぶっているスタッフや店主が店内に居て、その人々が慇懃にして無礼な言動を発することが多いからだ。確かに外食店舗を忙しくすることは至難の業であり、成功したことを自慢したくなることは仕方がない。しかし、それを態度であらわすようになっては客商売としては失格と言えよう。
私がうずら屋に初めてうかがった時、店は当たり前のように忙しく、テレビでよく見るタレントの姿もあった。小さな店内は卓袱台がある2階と厨房がある1階に分かれていて、そのカウンター席にうまく座ることが出来た。
煙りが似合う焼き場には若い男性と何となく風格のある女性。そして若いサービススタッフが決して立派とは言えない、むしろ貧素と呼んだほうがよい店舗の中を、まるで子ネズミが家具の間を縫うように小気味よく動いている。
「いらっしゃいませ」と言う声はあまり大きくなく、笑顔も薄く、そして何となく冷たい。
「あぁ、やっぱりここもそうか・・・。」と、何となく横柄にうつるその姿をみてつぶやいた。
メニューを見る。珍しい部位を使った焼き鳥や個性的な焼き野菜が並んでいたため、興味をもち何品かオーダーを。この時も、決して歯切れのよい返事はなかった。
飲物はワインを選ぼうとすると、焼き場を仕切る女性が「ワインリスト、あるにはありますが、無いものが多いです。後でソムリエが伺います」と一言。するとサービススタッフの女性が「お好みの感じやご予算をおっしゃってください」と聞きに来た。
それなりに答えると、その要望にあったワインをカウンターに置き、説明を始める。それもかなり深いレベルに掘り下げた説明を行って、そしてオーダーを取った。
ソムリエの態度や表情も決して笑顔ではなく、どちらかというと無愛想な部類に入るものであった。
「この店は、普通の忙しい店とは違うぞ」。そう感じさせたのは、先に書いたタレントと応対しているスタッフの態度を見たときだ。普通はこういう有名人がいると、スタッフの多くは普通のお客と少し違うリアクションを取ることが多い。つまり特別扱いだ。タレント業の人間は特別視してもらうことに生きがいがあるから、サービスの人間にわがままな文句を言ったりする。店側は彼らの機嫌を損なって、テレビや雑誌で悪口をいわれるようなことが無いように、当たり障りのない応対をしようと心がける。
しかし、ここは違う。うずら屋の誰しもは、どんな客であろうが、全く同じ応対であり、同じレベルの表情なのだ。
決して凝った店づくりではない。初めてゆくと「え?」という小さな悲鳴を上げるほど店は年季が入っている。椅子も小さく、空調も良くない。
しかし、ここに集うお客の数が増え続けている理由は、単に味や品数が良いという事だけではなく、こうしたスタッフの神経を使ったプロの振る舞いにある。
無駄に高いプライドをひけらかすように贅沢な店舗を構えようと、高級な素材が目白押しで営業をする店であろうと、常に等しく心を穏やかにしたプロの活気を持てない店には、この先の繁栄などありえないということを「うずら屋」は教えてくれる。