勉強になる「今月の一軒」 vol.
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台湾 誠品書店
東京の代官山、神奈川の湘南、そして今月5月、伊勢丹から新しく生まれ変わった大阪梅田ルクアイーレ内にも蔦屋書店が開業しました。本を中心軸とし、雑貨、食、音楽などトータルライフショップの作り方として日本で今、最も参考となるお店です。雑貨屋などでこういったスタイルの店舗は存在しますが、これほどの店舗面積で展開を行っているものは蔦屋書店でしかありません。
アイパッドなどで読書する人々も多い現代、本の良さを伝えるべく蔦屋書店が取り組んでいるこの新たな展開での店作り。はるか昔は「立ち読み禁止」の張り紙が貼ってあったこともある本屋から逆に「本屋で読書をさせる」ことで購買につなげることを可能にしたジュンク堂を更に進化させた蔦屋書店。それは、ひとりひとりが過ごす「時間」を提供する場のなかに本がある、というスタイル。本とともに食べ物があり、音楽があり、雑貨がある、もちろんパソコンもある、そしてあたかもホテルにいるかのような空間でアパレル店のように声をかけてくるわずらわしい店員もおらずストレスフリー。人気になるのは至極当然のことでしょう。
この今注目すべき蔦屋書店が参考とした店舗が実は台湾にありました。それが誠品書店。2006年にグランドオープンした大型書店のフラッグショップで、今や台北の顔であり情報発信地。誠品書店の創業は、1989年3月、創業者は呉清友氏。当初はオーナーの趣向が強い専門性に深い本を集める書店でしたが、人々に受け入れられにくく、このような本達がどうやったら一般の客に受け入れやすく、手にとっていただけるかと考えた末に生まれたのがこのトータルライフショップです。市場での位置付けは「文化、芸術、創造、生活の情報空間」。店内の洗練されたデザインは醸し出す雰囲気が「ひとりひとりが安心できる港」をコンセプトにしています。また誠品書店では、各店舗によって地域の差別化を図り、レイアウト、ゾーニング、商品内容、顧客層などマーケティングし、テーマを設け市場性にある店舗展開を図っております。そこでやはり注目すべきは、本と生活シーンの融合、雑貨、食品商品とのミックス、セレクト能力、何より魅せると売る、を両方備えたディスプレイ、まさに圧巻といえます。この特徴は前と後ろができることの多いディスプレイですが、ここ誠品書店は360度のディスプレイを行っており、本とともに人の動きに沿うように商品が陳列されています。さらに誠品書店に入っている各テナントもオリジナリティをもたせる店舗が多く、館自体の魅力を引き上げており誠品書店の高いテナントリーシングセレクト能力が成せる力といえましょう。
また、この誠品書店が新しい展開として生まれたのが2013年に開業した誠品生活。書店や物販、飲食店の他に映画館、コンサートホールやホテルなどの施設も兼ね備えたよりエンターテイメント性が充実した館となっています。ここでは誠品書店よりも硝子製作や皮細工、ジュエリー製作のワークショップなどが充実し、買う・見る・食べるという行動だけでなく、自らが体験し、作る、創造する、ことが出来る施設となり、より人々が、店に長く滞在し、楽しむことが可能な店作りとなっています。
誠品書店、誠品生活、そして蔦屋書店はひとりでいることにストレスを感じさせない店です。たとえ待ち合わせの友人が遅刻したとしても、ひとりでいることに手持ち無沙汰で必要もないのに携帯ばかり見てしまうこともなく、そこには本があります。そしてその本達が必ず皆一人一人になにかしら興味のある内容のものが揃っています。まさしく誠品書店のコンセプト「ひとりひとりが安心できる港」。買い物をするにも、飲食店でご飯をたべるにも、人と接することで楽しさと、「買わなければならない」「選ばなければならない」「あまり長く居たら迷惑」などの自分へのストレスが生まれます。更にひとりであったら、「私には一緒にいる友達がいないと思われているのではないか」といったストレスも多少ならず皆持っているはず。そのストレスを感じさせず、接客するわけでもなく、お客自身がそこに居ることで「読む」から「買いたい」気持ちにさせ、能動的に購買につながるこの店舗作りは「さすが」です。
日本の蔦屋書店はもちろんですが、台湾に行かれた際には是非覗いてみてください。